クチナシはつややかな緑の葉と清楚な白い花が特徴の常緑低木(1年を通して緑の葉をつける、高さの低い木)です。庭木として楽しむほかにも、クチナシの実は山梔子(サンシシ)という漢方薬や、きんとんやたくあんなどの黄色い着色料としても古くから使われています。
また、品種によって一重や八重に咲く白い花は、強く甘い香りが特徴です。クチナシを栽培するとき、この花を楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。でも、「大事に育てているのにいつまで待っても花が咲かない」というお悩みは意外に多いようです。
花が咲かない理由は、もしかしたら剪定の方法にあるのかもしれません。今回はクチナシをきれいに咲かせるための剪定のポイントをご紹介します。
剪定前に確認! 大切なポイント
庭木の剪定をする前にあらかじめ知っておきたいのは、適切な時期と剪定の方法です。時期を間違えてしまうと、翌年の花芽を切り落としてしまう可能性があります。また剪定の方法が適切でない場合も開花に影響を与えたり、虫や病気の原因になったりすることがあるので注意が必要です。
こまめな手入れは不要な場合も! クチナシについて知りましょう
クチナシは、アカネ科クチナシ族の常緑低木です。湿り気のある腐植質の多い土壌(動植物の遺骸が分解された黒っぽい土)を好み、庭の片隅のような半日陰の場所でもよく育つので、丈夫で手のかからない、育てやすい庭木とされています。
日当たりが悪いと花つきが悪くなりますが、適度に日の当たる場所であれば特別な世話をしなくても梅雨ごろには可憐な白い花を咲かせてくれます。また、樹形は自然に整うため、周囲に十分な空間があればこまめな剪定の必要はありません。
ただし常緑広葉樹であるクチナシは落葉しないので、新しい葉が混雑した状態で茂り過ぎると樹木の中心部ほど日が当たらなくなり、通気性も悪くなってしまいます。すると、虫が繁殖したり病気の原因になったりしやすいので、この場合は剪定が必要です。
8月以降はダメ? 虫がいる? クチナシの剪定時の注意点
クチナシに限らず、庭木の剪定には適切な時期があります。特に花木は、適期でないと開花に大きな影響を与えてしまうので剪定の時期には注意が必要です。
クチナシは6~7月に花が咲き、その後新しい花芽が育ちます。そのため、花が終わった直後の7月までが剪定の適期とされています。8月を過ぎてしまうと、翌年のために育った花芽を切り落としてしまうので、剪定は6~7月の花が終わった後すぐにおこないましょう。
また、6~7月は若い新芽が一斉に茂り始める季節でもあります。すると、柔らかな若葉をエサとする虫が繁殖するので、その対策にも剪定は有効です。
クチナシはオオスカシバという蛾の幼虫の害が多く、放置すればあっという間に葉を食い尽くされてしまいます。発見したら殺虫剤を塗布するなど早急に対処してください。小さな幼虫は葉の裏側にいることが多いので、しっかり確認しましょう。大きな幼虫は、割りばしでつまんで取り除いてしまうと手っ取り早いですよ。
適切な剪定で樹木の状態を把握したり風通しをよくしたりするのは、形を整えるためだけでなく、虫や病気の被害を食い止めることにもつながるのです。
観賞用? 植栽用? ひろく親しまれるクチナシ
庭木として広く親しまれているクチナシですが、鉢植えや盆栽として楽しむこともできます。クチナシは半日陰でも育つ丈夫な植物ですが、実は寒さや乾燥に弱い一面もあります。そのため、寒い地方で栽培する場合は鉢植えにして、季節に応じて置く場所を変えて寒さから守りましょう。
園芸種の多いクチナシは盆栽としても人気があります。艶やかな緑の葉や強い芳香の花も魅力ですが、ひこばえ(枝の切り口や根元から生える若芽)が出やすい性質なので、針金で樹形を整えやすいことも魅力のひとつです。
ひこばえは剪定することによって促進されます。そのため盆栽の場合は、どのように剪定するかが腕の見せどころともいえます。しかし、一般的にひこばえは植物の生育を妨げるので、樹形を整えるために残す以外は早めに切り取ったほうがいいでしょう。
このように小さな盆栽の場合は剪定する箇所にも目が行き届き、全体のバランスを取りながら剪定することができます。しかし、低木とはいえ1~2mにもなる庭木ではそういうわけにもいきません。
庭植え用クチナシの剪定方法
庭植えのクチナシの剪定は、おもに病気や虫害を予防するために通気性をよくしたり、周囲の庭木とのバランスをとったりするためにおこないます。花を観賞して楽しむことのできる花木でもあるクチナシは、剪定方法にコツがあるのでご紹介します。
基本の剪定方法とコツ~きれいな花を楽しむために~
きれいな花を楽しむためには、最低限の剪定にとどめることが大切です。枝や葉の付き具合によっては、どうしてもいくらかの花芽を切り落とすことになりますが、やりすぎてしまうと翌年の開花が減ってしまいます。込み合った部分を軽く切り詰める程度にして、花芽を守る剪定を心がけましょう。
また、クチナシは6~7月の開花と同時に花の下から葉芽が伸び、その伸びた枝の先端に翌年の花芽が付きます。そのため8月以降に剪定をしてしまうと翌年の花芽を切り落としてしまうので、花が終わったらすぐに剪定するのがよいでしょう。
伸びすぎてしまった枝を整えるための剪定方法
奔放に伸びてしまった枝は、「内側へ伸びている枝」や、「絡み合っている枝」、「栄養の足りない細い枝」を中心に間引く程度に剪定します。その際、葉を4、5枚残して先端を切り、太い枝は切らないようにしましょう。
しかし、徒長枝(とちょうし:幹や太い枝から長く太く伸びる枝)の場合は樹形を乱すうえに花芽も付きにくいので、生えている枝のところから切り、枯れてしまった枝は枝分かれしているところで切ります。通気性や、ある程度の日当たりを確保することができればいいので、花芽を落としすぎないように注意することが大切です。
詳しくは切るべき忌み枝をまとめた記事をご覧ください。
花の数を気にしない方へ! 時期も樹形も自由に剪定!
花を咲かせることが目的の場合は、どの季節においても翌年のための花芽があるので樹形を大きく変えるような剪定はできません。ですが、もしも花の数を気にしないということであれば、時期を問わず強い剪定も可能です。
こうした樹木を整えるのが目的の剪定を強剪定といい、中心となる太い枝を切り戻して全体の大きさを調節します。また、常緑樹であるクチナシは緑の葉が美しいので、丸や四角など好きな形に刈り込んで樹形を楽しむこともできます。余計な枝が生えた時点で剪定し、きれいな樹形を保ちましょう。
鉢植え用クチナシの育て方
鉢植えの場合、苗は4~6月、または9~10月が植え付けの適期です。大きく育っても根が窮屈にならないように、根鉢(土と根の固まり)より一回り大きく、十分な深さの鉢に植えましょう。
クチナシは腐食質で保水性の高い土を好むので、赤玉土と腐葉土を3:1の割合で配合し、元肥(もとごえ:植え付ける前に施す肥料)として、効き方がゆっくりで効果が長続きしやすい緩効性肥料や、堆肥を混ぜ込みます。もちろん花用の培養土でも大丈夫ですが、元肥入りのものを選ぶと手軽です。植え付け後はたっぷりと水をやり、その後は表面の土が乾いているかどうかを目安に水やりをしましょう。
鉢植えでクチナシを育てるときのポイント
クチナシは寒さと乾燥を嫌います。しかし直射日光や強い西日も苦手なので、鉢植えの場合は置き場所に注意しましょう。基本的に屋外で管理しますが、夏は半日陰、そのほかの季節は日の当たる場所へ置きます。寒冷地の場合は、冬場は凍らない場所に置きましょう。
また、乾燥させないように、土の表面が乾いたらたっぷりの水をやることが大切です。特に夏は乾燥で枯らさないように、朝と夕方の2回、しっかり水やりをしてください。逆に冬は水をやりすぎないように気をつけましょう。
肥料は頻繁に施す必要はなく、8月頃に油かすを根元に置く程度で十分です。
基本の剪定方法
鉢植えの場合も、茂り過ぎて枝が込み合っているときや、樹形を整えたいときは剪定が必要です。
特に5~6月は若葉が大きく育つので、根元への日当たりが悪くなりがちです。しかも、鉢植えは限られた土からしか栄養が取れません。上へと茂った外側の葉が全体を覆ってしまうと、日の当たらない中の方はやがて枯れてしまいます。
そうならないためにも、枝が込み合ってきたら適度な剪定をしましょう。その際、花を楽しみたい場合は適期と、刈り込みすぎないことに気をつけてください。
鉢植え用のクチナシを植え替えたいときは
クチナシは草木ではなく常緑低木なので、放置すれば根は大きく育ちます。鉢の中で根がいっぱいに育ってしまうと、根つまりして水が不足しやすくなってしまいます。そのため、2~3年に1回は植え替えが必要です。
大きくなった根に合わせて、もう一回り大きな鉢に植え替えましょう。植え替えの適期は5月前後か9月前後ですが、冬以外であれば大丈夫です。
きれいに花を咲かせたい! プロの手を借りてみませんか?
花を楽しむ花木では、剪定の適期を逃すと翌年の花芽に影響を与えてしまいます。クチナシ場合は6~7月の花後すぐが剪定の適期です。でも、忙しい毎日を過ごしていると、うっかり適期を過ぎてしまうことも多いのではないでしょうか。また、庭木の場合は他の植栽とのバランスも大切です。
庭木は、種類によって適期がちがいますが、同様の種類なら適期が同じ場合もあります。一緒に剪定できるものがあれば、まとめてやってしまうと楽ですよね。そうなると、園芸のプロの手を借りるのもひとつの方法かもしれません。
手入れの行き届いた庭は心地よいばかりでなく、隙のなさを感じさせて防犯にも役立ちますよ。剪定でお悩みの方は、専門の業者に相談されることをおすすめします。
まとめ
クチナシは半日陰でも育ち、樹形も自然に整うのでこまめな剪定も必要なく、育てやすい庭木として知られています。しかし、茂り方によっては剪定が必要な場合もあります。剪定には、虫や病気の被害を未然に防いだり、樹木の中心部まで日光が届くようにしたりする役目があるからです。
クチナシの場合は、6~7月の花後すぐが剪定の適期です。この時期を逃してしまうと、翌年の花芽を切り落としてしまい、「待っているのに咲かない」という事態になりがちです。また、刈り込みすぎても花数は減ってしまいます。
きれいな花をたくさん楽しみたいという人は、剪定の適期や刈り込み方に注意してください。もしも難しいと感じる場合は、園芸のプロに相談してみましょう。