冬が終わり、春の兆しが見えるころ、温かさとともに日本人を悩ませる花粉症の季節がやってきます。近年の全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの調査によると、なんと約30%が花粉症の症状を持っているそうです。春先は会社や学校で新年度が始まって忙しいときなのに困りますよね。
日本の森林には、現在とても多くの杉の木が植えられています。なぜ、これだけたくさんの人々が苦しんでいるのに、杉林は存在し続けているのでしょうか。
そして、早急に花粉症の原因となっている杉の木を伐採するなどの対策が早急におこなわれない原因と対策の現状をみていきます。
目次
花粉症大国日本。花粉シーズンは景気ダウンとの見解も
「花粉症の季節に外出を控えることで、個人消費の落ち込みが激しくなる」といった研究結果があります。花粉症による医療費支出や労働者の作業効率低下を計算すると、およそ2,800億円にものぼる損失になります。
国民の多くが悩む花粉症対策問題は、たびたび国会でも取り上げられています。政府は花粉症対策を考えた杉の木を開発したり、植え替えを呼び掛けていたりしますが、花粉症患者数は増加しています。
なぜ日本だけ?杉の木がこんなにも多い理由
では、なぜこんなに杉の木が増えたのでしょうか?日本に杉の木が増えた理由は、戦後復興の際に、国をあげて杉の木を植林したためです。
戦争によって、多くの木造住宅が焼けてしまったため、住宅を建てるために木材が必要とされてきました。そこで、木材としての用途が多く加工しやすい杉の木を、住宅用木材として使う目的で、植林してきたのです。
杉などの針葉樹は育つのが早いことも国が推進した理由のひとつです。国は植林業者に補助金を出して、どんどん杉林を拡大していきました。
今や日本の森林における、約2割が杉の人工林です。そして今も林業をおこなう業者が減ったとはいえ、国の補助金を受けて杉の植林がおこなわれ続けているのです。
なぜなら、杉の植林をやめると、日本の林業が成り立たなくなるからです。急に減らすことはできなくてもこれ以上、杉の木を増やすことはやめてほしいですね。
花粉症は深刻…なのに杉の伐採がなかなか進まない理由
国が推奨した杉の植林事業により、国民の健康被害が深刻となっている現状があります。それなのに、なぜ国の事業として至急伐採するなどの対策を取らないのでしょうか。この章で詳しくご説明します。
日本の杉の木が直面する「高齢化現象」
戦後に植林を推進した杉林は現在、伐り出せる大きさに成長しています。しかし、年間に伐採される杉の木はほんのわずかです。全体でおよそ50~60億の杉の木があるにも関わらず、なかなか減っていません。
杉の木があまり減らない理由は、人手不足とコストに関係があります。杉は高級木材として知られていますが、杉材を作って出荷するには人手とコストがかかりますよね。それに加えて、安価な輸入材のほうが需要があるため、出荷しても採算が取れません。そのため、現在は杉林が放置されているのです。
また、若者は都心部に働きに出て行ってしまい、林業をおこなう山林では過疎化が進んでいることも杉の木が伐採されない理由のひとつです。林業に従事する人たちの高齢化が進み、杉を間伐や伐採するための人手が足りなくなってしまっています。
そして、過密に杉の木を植林し放置されたところは、森林が荒れてしまい、人が立ち入れなくなってさらに伐採がしにくくなってしまうのです。
理由1:伐採するにもお金のやりくりが必要
花粉を飛ばさなくするためには、杉の木を根こそぎ伐採してしまえばよいのです。しかし、実際はそうはいきません。杉の木を伐採するにも、お金がかかります。
また、ただやみくもに伐採しても、ゴミとしての処分費用もかかってしまいます。ゴミの処分料を払いたくないという方は、なんとか杉の木を育てて商品化して生産コストを回収するのがよいかもしれません。
お金のやりくりという問題ですが、ここはなんとか国に頑張って欲しいですよね。国民全体の医療費の支出を考えれば、原因から解決することが望まれます。
理由2:一気に伐採すると自然災害の恐れが
山に生えている木は、地面の奥深くまで根を張り巡らせ、土を抱え込むとともに雨水を保水する役割をしています。一気に山に生えている木を伐採すると、その保水効果がなくなります。
その結果、木がなくなったはげ山は大雨が降ると地盤が崩れやすくなり、地滑りや土砂崩れが起きやすくなります。
土砂災害の危険に加えて、長い目でみると地球温暖化のおそれもあります。杉の木は二酸化炭素の吸収量が多いため、二酸化炭素削減・地球温暖化を防ぐ役割も果たしているのです。
自然災害を避けるため、一気に杉の木を伐採するのではなく、代わりの木に植え替えていく対策が必要でしょう。
花粉症対策の代替案!花粉を出さない杉の木の開発
自然災害が増えるから杉の木を根こそぎ伐採はできない、といってもこのまま花粉をばらまき続ける杉の木を放置するわけにはいきませんよね。代替案として、花粉症対策を考えた木を植え替えていかないといけません。
花粉が少ない杉の木が開発された
林業会社の中には、1996年に開発され国から支給された、花粉が少ない杉苗木を培養している会社もあります。しかし、実際には杉の苗木全体の数%程度です。
新たに林野庁は2016年、スギの雄花の花粉に繁殖するという珍しいカビを使って、花粉を出さない杉の木の研究を始めました。杉の木に特殊なカビを混ぜた液体を塗り、スギの成花粉そのものを出さないようにするのです。まだまだ実用化には時間がかかるでしょう。
しかし植え替えはなかなか進まない様子
杉の木を減らすために、自治体レベルで取り組んでいるところもあります。杉の木を花粉量の少ない苗木やヒノキに植え替える「植え替え」などです。たとえば、東京都も植え替えに取り組んでいます。東京都の場合は、森林の7割が集中する多摩エリアで森林再生事業を始めました。
しかし、この動きが始まってからも東京都では花粉症の症状を訴える人が多く、数値として結果は出ていません。効果はまだ定かではありませんが、一気に環境を変えることは難しく、なかなか植え替えが進まない状況にあります。
また、宮崎県でも杉の対策がおこなわれています。宮崎県の林業家の方が花粉症撲滅を目指して任意団体を作り、杉伐採の寄付金を呼び掛けたそうです。「1,000円で約62平方メートルの杉林の伐採をおこなえます。国民の有志で伐採をおこないましょう」と呼びかけたそうです。
しかし、寄付金は3万円ほどしか集まらず、看板代に消えたそうです。このような情報を全国的に広めて、マスク代のつもりで寄付してくれる人が増えたらよいですね。今後花粉症を撲滅するためには、これらの「植え替え」の継続が不可欠ではないでしょうか。
従来の杉から花粉の少ない杉の植え替えは、費用と時間のかかる課題ではあるけれども、国民の健康を守るためには大切ですよね。
まとめ
ここまで、日本における杉の木の伐採事情や、花粉症の代替案についてご紹介してきました。水と森林の豊かな国、日本で国家事業として杉植林を推進した結果、残念ながら花粉症に苦しむ方が増加してしまいました。
現在ある杉の木を花粉の少ないものに入れ替えたり、新たな技術を導入して改善していったりしていくことはまだ効果を実感することは難しいようです。しかし、お金や時間のかかることですが、日本には国家事業として今や日本人の国民病となってしまった花粉症を改善する技術があると信じたいですね。
また、自分で花粉症を防ぐ方法もあります。たとえば、日ごろから、バランスのよい食事にすると花粉症になりにくいというデータもあるので、バランスのよい食事を心がけて自分でも花粉症を防いでいきたいですね。
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