「不気味な巨大蜂がいる…これってチャイロスズメバチ?」
「オオスズメバチとどっちが危険なの?」
絶滅危惧種で珍しい存在のはずが、近年は各地の都市部でも増えつつあるチャイロスズメバチ。日本の殺人蜂の一種でとても気性が荒く、刺された時の強烈な痛みはオオスズメバチ以上と言われています。さらに空中から毒液を噴射して目潰し攻撃をするなど、かなり高い攻撃性があることはご存じでしょうか。
- チャイロスズメバチの生息地
- 見た目の特徴
- 毒性や攻撃スタイル
- 他種の巣を乗っ取る習性
- チャイロスズメバチの駆除と予防
社会寄生種であるチャイロスズメバチ特有の生態と、刺されず安全に対処するために必要な情報をわかりやすくお伝えします!
目次
チャイロスズメバチの生態
チャイロスズメバチは、チョコレート色をした鎧のように固い外皮と、頑強な毒針を持つ「スズメバチの巣の乗っ取り屋」です。
女王蜂は他種が巣を作り始めた6月頃から活動を開始し、モンスズメバチやキイロスズメバチの巣を襲います。頑強な毒針で女王蜂を刺し殺して巣を乗っ取ると、産卵して宿主の働き蜂にも協力させながら子育てをおこないます。
特殊なフェロモンで自分たちを仲間と認識させ、初期は2種が混ざった状態で営巣。やがて先住の働き蜂たちの寿命が尽きると、巣にはチャイロスズメバチだけが残り、結果的に宿主より長く生きることができるのです。
このような特異な形態で、チャイロスズメバチの営巣活動は10月頃まで続きます。
チャイロスズメバチ | |
学名 | Vespa dybowskii Andre |
生息地 | 北海道、本州のほぼ全域。海外では中国、朝鮮半島、東シベリア、台湾、タイ、ミャンマー北部。 |
活動期 | 6~10月 |
体色 | 頭と胴体は茶褐色、腹部は黒 |
大きさ | 働き蜂:17~24mm 女王蜂:30mm前後 オス蜂:20~27mm |
危険度 | 攻撃性:強い 追跡力:10m 毒の量:大 |
営巣 | 社会寄生種のため、巣は釣鐘型や球状など多型。閉鎖空間を好むが、開放空間にある巣を乗っ取ることもある。 |
蜂の数 | 巣のピーク時は働き蜂の総数が100~700匹になる。 |
食性 | 幼虫:昆虫類を丸めたもの 成虫:樹液、花の蜜など |
「絶滅危惧種」チャイロスズメバチの生息地
チャイロスズメバチは、北海道から本州のほぼ全域に生息地を広げ、近年では九州地方にまで迫りつつあります。現在チャイロスズメバチの営巣が確認されているのは広島県、島根県が最西端ですが、さらに西の地域まで生息域を拡大している可能性は極めて高いと考えられています。
群馬県など一部の地域で絶滅危惧種に指定されてきたことから、チャイロスズメバチには珍しい幻の蜂という印象があります。しかし、2000年代初頭まで東日本を中心に生息していたチャイロスズメバチは徐々に南西へ広がり、各地の山間部だけでなく都市部でも確認されることが増えました。
このことから、チャイロスズメバチが「希少な絶滅危惧種」から「身近で危険な蜂」へと変わりつつあることがうかがえます。
チャイロスズメバチの珍しい特徴
年々増えているチャイロスズメバチですが、独特の風貌をはじめ珍しい面の多い蜂です。見慣れない大きな蜂に遭遇し、種類がわからず不安になる人も多いのではないでしょうか。
チャイロスズメバチの大きな特徴は次の3つです。
- 縞がなく黒っぽい体色
- 強固な毒針と外皮
- 他種にない威嚇行動
それぞれ詳しくみていきましょう。
チャイロスズメバチは蜂らしくない地味な色
多くのスズメバチは黄色と黒の縞模様が目立ちますが、チャイロスズメバチは黒と茶褐色のシンプルな体色をしています。蜂にしては珍しい地味な色のため、ゴキブリなどと間違われることもあるようです。
「もしかしたら他のスズメバチかも?」と気になった方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
スズメバチの中で最も固い毒針と外皮
大きさはキイロスズメバチと同程度ですが、冒頭でも触れたようにチャイロスズメバチの女王蜂はキイロスズメバチやモンスズメバチを毒針で刺し殺し、巣を乗っ取ります。
チャイロスズメバチはスズメバチの中で最も太く長い毒針を持ち、鎧のように固い外皮膜に覆われているため、他種より攻撃力・防御力に優れているのです。
チャイロスズメバチ特有の威嚇スタイル
チャイロスズメバチは集団で攻撃してきます。最初は単独で顎をカチカチ鳴らして警戒サインを送り、それでも敵が退かないと群れで地面に近い位置を飛び回って威嚇します。
攻撃に転じると、刺すだけでなく空中から毒液を噴射してくることもあります。この攻撃を目に受けると失明するおそれがあるため注意が必要です。
威嚇されたり、黒っぽい蜂が集団で低く飛び回っていたなら、安全のためすぐにその場を離れましょう。
チャイロスズメバチは巣を乗っ取る社会寄生種
チャイロスズメバチは営巣初期の段階で巣が途絶しやすいため、このリスクへの対策として他のスズメバチの巣を乗っ取ります。これは社会寄生と呼ばれる習性で、宿主に寄生することで労力を補い、少ない負担で長く活動することができるのです。
しかしチャイロスズメバチは自力で巣を作ることも可能で、宿主の巣が近場になかったり、乗っ取りに失敗した場合は自分たちだけで営巣活動をおこないます。
宿主はモンスズメバチとキイロスズメバチ
チャイロスズメバチが主に狙うのは巣の構造が近いモンスズメバチですが、キイロスズメバチの巣にも寄生することで年々その数を増やしてきました。この2種に寄生する理由は不明ですが、他のスズメバチとは次のような相違点があります。
- 巣の規模が大きく、十分な育房数がある
- 生息域が広く絶対数が多い(巣を見つけやすい)
オオスズメバチもこの条件に近いですが、体格的に劣勢となる相手の巣を狙うことはないようです。
また、巣の規模が最大であるツマアカスズメバチとは生息地が重なっておらず、寄生する様子は見られません。
チャイロスズメバチの巣の特徴
社会寄生種であるチャイロスズメバチの巣の形態は、他種よりも複雑です。
巣を乗っ取れずにチャイロスズメバチだけで自作する場合は、モンスズメバチに似た形状の巣を閉鎖空間に作ります。また、壁の中などでは一部外皮がない状態の巣を作る様子も見られます。
チャイロスズメバチが乗っ取った巣がモンスズメバチのものなら、巣の形状は釣鐘状で下部開放型になります。営巣場所は地中や樹洞、屋根裏や壁の中などの閉鎖空間です。
乗っ取った巣がキイロスズメバチのものなら、球状の巣を軒下や木の枝などの開放空間に作ることが多いです。しかし、キイロスズメバチは閉鎖空間に営巣することもあるため、巣の形態は多型傾向となります。
巣の場所や規模がよくわからないときは、無理に立ち入らないようにしましょう。気づかずに蜂を刺激して攻撃を受けるおそれがあるため、駆除業者に連絡するなど安全な対処を心がけてください。
最強はどっち?チャイロスズメバチVSオオスズメバチ
チャイロスズメバチとオオスズメバチの強さ比べをした場合、圧倒的な体格差などからオオスズメバチに軍配が上がるでしょう。しかし、チャイロスズメバチはオオスズメバチを凌ぐ一面も持っています。
チャイロスズメバチの針と外皮は種で最強
「チャイロスズメバチの珍しい特徴」の章でも触れたように、チャイロスズメバチはスズメバチの中で最も太く長い毒針を持っています。また、針だけでなく外皮全体が頑強なため、多くの昆虫を噛み砕く威力を持つオオスズメバチの顎や針も簡単には通しません。
刺されたときの痛みも種で最強
種で最多の毒量を誇るのはオオスズメバチですが、刺されたときの痛みはチャイロスズメバチが最強と言われています。これは、毒液に含まれるセロトニン(痛みや痒みを引き起こす成分)の量がスズメバチの中でも最も多いためです。
攻撃性はオオスズメバチを超えることも
チャイロスズメバチは、宿主の女王蜂を刺し殺して巣を奪う習性からも見られるようにかなり攻撃的で、人への攻撃もオオスズメバチより早い段階で開始するという情報が見られます。
また、他種を追い払って餌場を独占するオオスズメバチに対し、ほんの数センチの距離で樹液を狙う物怖じしない様子が見られることからも、チャイロスズメバチの気の強さがうかがえます。
チャイロスズメバチに有効な対策
スズメバチは黒っぽいものや色の濃いもの、動きの大きいものを攻撃する傾向があります。この章を参考に、チャイロスズメバチに狙われないための対策をおこないましょう。
チャイロスズメバチの営巣期間である6~10月は特に攻撃されやすい時期ですので、レジャーなどで出かける際には、次のような安全な服装がおすすめです。
- 黒や原色をさけた白っぽい服装
- 長そで長ズボン(袖や裾がぴったりしたもの)
- 蜂がすべってとまりにくいナイロン製
- 頭、目、手を守る帽子や革手袋など
- 匂いのする整髪料や香水は使わない
スズメバチはアルコールやジュースの香りにも寄ってくるため、匂いのするものには十分注意しましょう。
- 巣には絶対に近づかない
- 蜂に遭遇したら頭を下げてしずかに20m以上離れる
- 叫ぶ、手で払う、走るといった大きな動きは控える
もし遭遇してしまった場合は慌てず騒がず、そっと距離を取るのが正解です。
チャイロスズメバチに刺されたときの対処
チャイロスズメバチに刺されると、あまりの痛みに命の危険を感じる人もいるようですが、1匹の毒量と毒性にはオオスズメバチほどの脅威はありません。しかし、チャイロスズメバチは集団で攻撃する種ですので、何度も刺されて重篤なアナフィラキシーショックに陥るおそれは十分にあります。
万一刺されてしまった場合、次の攻撃を受ける前に下記のように対処してください。
- 刺された場所からすみやかに離れる
- すぐに医療機関を受診
- 応急処置をおこなう場合は、患部をつねって毒を絞り出しながら流水で洗い流す(毒を口で吸い出すのは危険なのでさける)
蜂の毒には仲間を呼び寄せるフェロモンが含まれているため、1匹に襲われたあとで集団に襲われるおそれがあります。1匹の攻撃にも適切に対処し、被害の拡大を防ぎましょう。
スズメバチの巣を駆除するときの注意点と最善策
社会寄生種であるチャイロスズメバチの巣は、作られる場所や形状が多岐に渡り、その分駆除の難易度も高いと言えます。安全・確実に撤去するなら、知識と技術を持ったプロが作業にあたるのが最善です。
自力駆除できるのは女王蜂しかいない初期の巣
チャイロスズメバチの巣は蜂の総数が700匹以上になることもあるため、個人で巣を駆除するのは危険です。
この画像のような女王蜂しかいない初期の巣であれば自力駆除も可能ですが、チャイロスズメバチは他種がある程度作った巣に寄生することが多く、すでに危険な段階に達しているおそれがあります。
また、木の洞や屋根裏などの閉鎖空間にある巣は全貌が見えないため、うかつに手を出して攻撃されることがないよう慎重な行動を心がけましょう。
巣を安全に駆除する方法についてくわしく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
チャイロスズメバチの巣の駆除はプロ依頼が安全
ここまでにご紹介した特殊な営巣形態から、チャイロスズメバチの巣を駆除したいときは業者に相談するのがおすすめです。
自治体が対応してくれる地域もありますが、業者ほどの対応は期待できません。
市のボランティアによる作業の場合、完全に駆除できないことがあります。
また、巣の場所がわかっていないと申請自体ができなかったり、駆除までに日数がかかるなどのデメリットもあります。
「巣がありそうだけど断定できない」「急いで駆除してほしい」という場合は、即日対応してもらえる駆除業者に相談してみましょう。
ハチ110番では、チャイロスズメバチの駆除に関するご相談を24時間受付けています。業者利用についての疑問や、料金に関するご質問など、何でもお問い合わせください。
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