「蜂に刺されたらどんな症状が出るのか?」
「蜂に2回以上刺されたら死んでしまうのは本当?」
蜂の毒の危険は知られていますが、具体的な対処法がわからなければ命の危険もあります。
蜂に刺されたら、まずはその場を離れましょう。そして応急処置を施したり、医療機関で診てもらったりすることで、命を落とすといった最悪の事態を回避することができます。
この記事では、蜂に刺された直後の逃げ方から、今後蜂に刺されないための対処法までご紹介していきます。正しい対処法を覚えて蜂から身を守れるようにしましょう。
麻酔科標榜医
日本麻酔科学会麻酔科専門医
日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格
日本救急医学会ICLSコースディレクター
蜂に刺された後の対処法
蜂に刺された後の対処は非常に重要です。なぜなら毒が回って激しいアレルギー反応が出るおそれがあるためです。特に重いアレルギー反応は短時間で命にかかわる事態におちいることもあるので、迅速な対処が必要です。
- その場から離れる
- 毒針を抜き、毒を絞り出す
- 傷口を洗いながら毒を絞り出し、抗ヒスタミン軟膏を塗る
- 医療機関を受診する
蜂に刺されたらその場から離れる
まずは蜂に刺された場所から離れます。特に蜂の中でも攻撃性の強いスズメバチは、毒針を刺す前の威嚇行動の段階で攻撃フェロモンを出して仲間を呼びます。
そのままでは蜂の集団に襲われるおそれがあるので、少なくとも50mは元来た道を戻るように離れましょう。住宅の近くであれば、蜂が侵入しないよう素早く家の中に逃げ込むことも効果的です。
離れる際は、手で払うような大きな動作をしないようにご注意ください。蜂を刺激して興奮させ、刺されるリスクを自分から大きくしてしまう危険があります。
毒針を抜き、毒を絞り出す
刺傷部に毒針が残っている場合、まずは毒針を抜きましょう。刺したのがミツバチの場合、刺した箇所に毒針と毒のう(毒が入った内臓)が残ることがあります。これはミツバチの毒針が抜けにくい構造になっているためで、毒のうからは毒が送られ続けます。
毒針を抜く際は毒のうを触らないように気をつけつつ、毒針の先端をつまんで抜きます。指で抜こうとすると毒のうに触れやすく、また針を変形させてしまい更に抜けにくくしてしまうことがあるので、カードなどの薄いものでこそぐようにするとつまみやすいでしょう。
毒針を抜いた後、または毒針がなかった場合は毒を絞り出します。毒を絞り出す際は、指や爪でつねるように傷口を強く挟みます。その際、刺傷部に触れたりこすったりすると細菌が入り込むおそれがあるので注意しましょう。
ポイズンリムーバーで毒を吸引する
持っているなら、指や爪ではなくポイズンリムーバーで毒を吸引しましょう。ポイズンリムーバーとは注射器のような形の道具で、真空状態を作り出すことで強い力で毒を吸い出します。蜂の巣駆除をおこなう際や、山の中など蜂がいる可能性が高い場所に行く際は用意しておくと、いざというときに役に立つかもしれません。
具体的な商品や使い方はこちらをご覧ください。
商品名 | ドクターヘッセル インセクト ポイズンリムーバー 00050008 |
価格 | 963円(2022年5月26日時点) |
傷口を洗いながら毒を絞り出し、抗ヒスタミン軟膏を塗る
冷たい水で傷口を洗い流しながら毒を絞り出します。蜂毒は水に溶けるので洗い流すのが有効です。また、冷やすことで毒の巡りを遅くする効果も期待できます。
毒を可能な限り絞り出した後は、抗ヒスタミン軟膏(またはステロイド軟膏)を塗りましょう。薬を塗った後は患部を冷やし続けます。これらの処置を素早くおこなうことで痛みや腫れを抑えることができます。
医療機関を受診する
上記の方法はあくまで応急処置です。もしも重症化するおそれがある場合は早く医療機関に行きましょう。目安として、30分ほど様子を見て異常がなければ重症化のリスクは低いです。
以下の場合は念のために医療機関に行くことをおすすめします。
- 寒気や倦怠感などの全身症状が表れた
- 目を刺されたり、毒液をかけられたりした
- 蜂に何度も刺された
- 過去に蜂に刺されことがある
受診する際は皮膚科・内科・アレルギー科を選んでください。
症状によっては自力で医療機関に行くことが難しいかもしれません。可能であれば助けを呼んだり、誰かと一緒に行動したりするように対処しましょう。特に全身症状が出た場合は迷わず救急車を呼ぶべきです。
過去に重症化した場合はエピペンを自己注射する
過去に蜂に刺されて重症化した場合、それ以降も重症化し、医療機関まで間に合わないかもしれません。その対策としてエピペンを自己注射しましょう。
エピペンは、アナフィラキシーがあらわれたときに使用し、医師の治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤(アドレナリン自己注射薬)です。
あくまでも補助治療剤なので、アナフィラキシーを根本的に治療するものではありません。エピペン注射後は直ちに医師による診療を受ける必要があります。
エピペンは医療機関で処方してもらう必要があるので、一般の方が自由に購入することはできません。過去にアナフィラキシーが起こった人や、アナフィラキシーを起こす可能性が高い人に対して医師から処方されます。
ただし、エピペンを処方できるのは一定の条件をクリアした医師のみとなっています。皮膚科の開業医であればほとんど処方可能ですが、処方できない医師もいるのでご注意ください。
アナフィラキシーを発症すればエピペンを自己注射することすら難しくなるかもしれません。処方された方は出かける際は常に携帯し、蜂に刺されてアナフィラキシーの兆候が表れた際は速やかに注射しましょう。万が一自己注射できない状態におちいった場合は、本人以外が注射する必要があります。
エピペンは太ももに注射します。ぐっと押し当てて、ボタンを押すと自動で針が出て必要な分の薬液が自動で注射されます。
蜂に刺されたら起きる症状
蜂に刺されるとさまざまな症状が発生します。全身症状と局所症状に分けられますが、特に危険なのは全身症状です。
全身症状
全身性の急性アレルギー反応は「アナフィラキシー」と呼ばれ、そのなかでも血圧が低下し全身状態が極めて悪化する重篤なものを「アナフィラキシーショック」と呼びます。
蜂による死亡事故の多くは蜂の毒ではなくアナフィラキシーショックによるものなので、過去に全身症状が表れたことがある方は、医療機関でアレルギーの原因になるIgE抗体の検査を受けてみましょう。
IgE抗体は陰性でもアナフィラキシーが起こることがありますし、逆に陽性でもアナフィラキシーを起こさないこともありますから、アナフィラキシーを確実に予言する検査ではありません。しかし、陽性であればそれだけアナフィラキシーを起こす可能性が高くなりますから、参考として知っておいて損はないでしょう。
▼アナフィラキシーの症状
全身症状 | 倦怠感、脱力感、冷や汗、寒気 |
循環器症状 | 血圧低下、脈拍微弱頻数、胸苦しさ、チアノーゼ |
消化器症状 | 失禁、下痢、嘔吐 |
呼吸器症状 | 呼吸困難、喘鳴、喉頭狭窄感、胸部絞扼感 |
神経症状 | しびれ感、めまい、意識障害、けいれん |
皮膚症状 | 蕁麻疹、掻痒感(かゆみ) |
蜂に刺された経験の記憶がない方でも、元から蜂毒に対するアレルギーを持っている方がいます。そのような方は、初めて刺された場合でもアナフィラキシーが起きることがあります。不安な方も検査を受けてみてください。
アナフィラキシーショックは進行が速く、発症は数秒から数分、死に至る場合は30分から1時間と言われています。もしもIgE抗体を持っている(蜂毒に対するアレルギーがある)とわかっているなら、それを示すカードやバッジなどを持つことをおすすめします。
局所症状
蜂刺されによる局所症状には以下のものがあります。
- 腫れ
- 痛み
- かゆみ
これらの症状は数日で収まります。ただし体内にIgE抗体がある場合は上記の全身症状も表れるおそれがあります。
また、蜂に刺された直後の痛みもあります。中でも非常に危険性が高いオオスズメバチに刺された際の痛みは激しく、「太い釘が刺さったよう」と表現されることもあるほどです。
間違った対処法に注意!
蜂に襲われた際の対処法には、逆に事態を悪化させる間違った方法もあります。
いざ蜂に襲われると、気が動転して間違ったことをしてしまうかもしれません。また、すでに間違った対処法を覚えてしまっているかもしれません。冷静なうちに以下の2点を確認しておきましょう。
- 毒を口で吸いだす
- 尿(アンモニア)をかける
毒を口で吸いだす
毒を指やポイズンリムーバーではなく、口で吸いだしてはいけません。口の中に傷や虫歯があった場合、そこから毒が入ってしまうおそれがあるためです。また、逆に口の中の雑菌が刺傷部に入ってしまうおそれもあります。
毒を出す際は水で洗いながら絞り出すか、ポイズンリムーバーを使いましょう。
尿(アンモニア)をかける
残念ながらアンモニアは蜂毒に効果がありません。これは蜂毒の成分の誤解によるもので、逆に皮膚炎を引き起こすおそれがあります。
そもそも尿にはほとんどアンモニアが含まれていないため、効果があったとしても意味がありません。不潔なだけなので尿をかけるのはやめましょう。
その他の民間療法
土地によっては蜂毒に効果があると言われる民間療法がありますが、その効果は確かとは言えません。逆効果になるおそれもあるので、より確実な対処法を選びましょう。
- モチ草、ワラビの汁、玉ねぎの汁、アロエの汁などを塗る
- 蜂入りの焼酎などを塗る
二度と蜂に刺されないための対策
蜂に一度刺されれば、IgE抗体が作られ、もう一度刺された際に重症化するかもしれません。そうでなくとも蜂に刺されれば激痛に襲われるので、なるべく刺されないようにしたいものです。
そこでここからは、蜂に刺されないための対策をご紹介していきます。簡単にできることも多いので、蜂の数が増えてくる夏から秋に出かける際は、以下のことに気をつけて行動しましょう。
- 黒いものやひらひらしたものを身につけない
- 香水などの香りが強いものを身につけない
- 身近な場所にある蜂の巣を駆除しておく
黒いものやひらひらしたものを身につけない
蜂対策として、髪を帽子で隠したり、白地で体にフィットした服を着たりするのが有効です。これは蜂の習性が理由です。
蜂は黒い髪や瞳など、黒いものを優先して攻撃する習性があります。この習性は、巣を襲う天敵である人間や熊などの弱点を効率的に攻撃するために身についたと言われています。
また、ひらひらと動くものにも反応しやすいです。そのため長い黒髪や、暗い色のゆったりした服装は蜂を刺激してしまうおそれがあります。お出かけの際は意識してみてください。
香水などの香りが強いものを身につけない
香水や整髪料など、香りが強いものは身につけないようにしましょう。蜂は香りに敏感なので刺激してしまうおそれがあります。
同じ理由で、外で清涼飲料水を飲んでいると蜂が寄ってくることがあります。運が悪いと、知らないうちに缶の中に蜂が入り込み、気づかないまま飲み込んでしまうケースもあります。もしも口の中を刺されると気道がふさがって呼吸困難におちいり、命の危険にさらされることがあります。
実験からわかった蜂の攻撃性
「蜂が黒いものや香りに反応すると言われてもピンと来ない」と思われるかもしれません。そこで、蜂の攻撃性についてキイロスズメバチを使った興味深い実験結果をご紹介します。
「まず巣から1メートルほど離れた場所に白と黒の旗を置く。ただ置いてある状態では白い旗にも黒い旗にも刺す行動には出ない。しかし一頭でも刺すとその毒液の匂いに触発され、何頭かが刺す行動に出る。
次に旗を振ってみる。即座に働きバチは関心を示し、特に黒い旗には振るたびに群がるように集まり、一部は威嚇行動に移り、刺す個体もあらわれる。次々とほかの個体も刺すようになる。いっぽう白い旗を振っても関心は示すものの、本格的な攻撃行動はわずかしかみられない。
今度は巣に刺激を与えてみる。すぐに巣からたくさんの働きバチが飛び出し、触れるものを刺す行動に出る。旗が振られていなくても攻撃する。特に黒い旗には群がるように攻撃する。
さらにオーデコロンを数滴たらした布を巣に近づけてみる。すると巣内からウォーンと羽音をたてて、興奮した働きバチが次々と飛び出してくる。」
この実験により、蜂は黒いものや動くものを優先的に攻撃することがわかりました。くれぐれもご注意ください。
身近な場所にある蜂の巣を駆除しておく
蜂は人の生活圏に巣を作ることがあり、その場合意図しなくても蜂の巣に刺激を与えて襲われる危険があります。万が一身近な場所に巣を作られてしまった場合、巣が大きくなって危険性が増す前に駆除しましょう。
蜂の巣を作られやすい場所を以下のイラストにまとめました。蜂の巣の有無をチェックする際の参考にしてみてください。
蜂の巣を自力で駆除する方法についてはこちらをご覧ください。
もしも作られた蜂の巣が手に負えない状態の場合は、無理をせずに蜂駆除業者に依頼しましょう。
蜂は刺激しなければ基本的に安全
たとえ危険性が高いスズメバチでも、巣の近くを通ったり刺激を与えたりしなければ基本的には安全です。むやみに駆除をすれば、興奮した蜂に襲われたり、その地域の生態系が崩れて別の害虫が発生したりするかもしれません。
上記のような身近な場所以外に蜂の巣が作られた場合、むやみに駆除せず巣の近くを通らないように注意しましょう。
蜂からの警告に注意!
蜂の巣が目に見えなくても、蜂が飛んでいるのを見かけると近くに蜂の巣があるのではないかと思うことでしょう。特に巣が近くにあるとき、蜂は巣が攻撃されることを防ぐために警告行動を取ります。
- 周囲を飛び回る
- 羽音を強く出す
- 大あごをカチカチと鳴らす
- 空中でとどまったり近づいたりして、狙いを定める
このように、明らかにこちらを意識しているような蜂の行動は非常に危険です。すぐにその場を離れましょう。
まとめ
蜂に刺された場合の対処法と、今後刺されないための対策をご紹介してきました。これらの要点をまとめると以下のようになります。
- 蜂に刺されたらまずその場から離れる
- 離れた後は毒を絞り出し、重症化するおそれがある場合は医療機関の皮膚科を受診する
- 過去に重症化したことがある場合はエピペンを常備する
- 逆効果になる間違った対処法は避ける
- 蜂を刺激する行動を避ける
蜂に襲われたり刺されたりすると冷静ではいられません。万が一に備え、なんともないうちに対処法を覚えて対策しておきましょう。
自分でできることはいくつもありますが、その中でも蜂の巣の駆除は難易度が高い対策です。小さなアシナガバチの巣なら難しくはありませんが、蜂の巣の種類や大きさによっては素人の方が手を出すのは危険です。
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